大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和27年(行モ)1号 決定

神戸市灘区琵琶町二丁目二五

原告

新谷政太郎

神戸市灘区

被告

灘税務署長

玉井彦一

右当事者間の昭和二七年(行)第一九号所得税課税処分取消請求事件について被告が原告に対する昭和二五年度所得税中金七、三五〇円、同二六年度所得税中金二八、七五〇円、同二七年度所得税中金一五、六八〇円の国税滞納処分として昭和二六年八月二八日神戸市灘区琵琶町二丁目二五番地上家屋番号二七番の五、末造瓦葺二階建居宅一棟建坪一四坪五合二階坪九合に対しなした差押処分の執行停止の申立があつたところ、処分の執行に因り生ずべき償うことのできない損害を避ける為緊急の必要があるとは認められないから次の通り決定する。

主文

本件申立は、これを棄却する。

昭和二十七年十一月一日

(裁判長裁判官 古川静夫 裁判官 西村哲夫 裁判官 保津寛)

(参考)

国税滞納処分の執行停止決定申立書

神戸市灘区琵琶町二丁目二五番地

申立人 新谷政太郎

被申立人灘税務署長 王井彦一

申立の趣旨

被申立人より申立人に対する昭和二十五年度所得税中金七千三百五十円二十六年度所得税中金二万八千七百五十円二十七年度所得税中金一万五千六百八十円の国税滞納処分として昭和二十六年八月二八日神戸市灘区琵琶町二丁目二五番地上家屋番号七二番の五木造瓦葺二階建居宅一棟建坪一四坪五合二階坪九合に為したる国税滞納処分の執行は、本案判決をなすに至るまで之を停止するとの御裁判を求める。

申立の理由

一 被申立人は申立人に対し昭和二十六年八月二八日昭和二十五年所得税中金七千三百五十円同二十六年度所得税中金二万八千七百五十円、同二十七年度所得税中金一万五千六百八十円の滞納があるとして之が徴収の為申立人所有に係る神戸市難区琵琶町二丁目二五番地上家屋番号七二番の五木造瓦葺二階建居宅一棟建坪一四坪五合二階坪九合の家屋に付差押処分を為し其の公売期日を昭和二十七年一〇月二〇日と定め通知して来た。

然し乍ら申立人は右課税年度に於て被申立人の決定した様な所得なく右課税処分は全く不当である。即ち申立人は昭和二十七年一月以降休業し其の休業の届出を終つているが其の以前には昭和二十四年十一月頃より同二十六年十二月三十一日迄土砂売買の仲介業を営んでいたものであるところ昭和二十五年度はわずかに金五千円程度同二十六年度は金五万円の所得があつたに過ぎず而も二七才の大学在学中の学生を頭に一一才の小学生迄計五人の家族を擁し内四人は扶養親族に該当するものである。

仍つて右所得に付基礎控除を受ける時は申立人は全然課税せられない筋合であるに不拘被申立人は何等確実な調査をせず単なる推定に基き前記のような過大な所得を認定決定したのである。

殊に昭和二十七年度分は休業し、全然無収入であるに拘らず賦課したものである。又昭和二十五年度分は本件公売通知を受くる迄何等決定通知なかつたものである。申立人は昭和二十六年度分については其の所得決定通知を受けた際所得金二十四万円と決定せられていたので其の過大不当を理由として直ちに再調査の請求をし、今月に至つているが、その間二十数回に亘り灘税務署に赴き係員と交渉したが何等調査の根拠の説明を得られず又決定も受けられなかつたのである。

申立人の前記年度の収入所得は前述の通りであるが、此の間の生活費は右収入及び不動産売却に依る収入金並に手持現金に依り賄つて来たものである。

以上の如く被申立人の課税処分及び差押処分は不当であるから本月御庁に対し右処分の取消を求める為本訴を提起したが、右本案判決前前記公売を実施せらるるに於ては申立人は償ふ事の出来ない損害を蒙るので此の損害を避ける為に保証を立てる事を条件として申立趣旨記載の如く御裁判を仰ぎたく申立に及んだ次第である。

意見書

昭和二十七年十月三十日

灘税務署長 玉井彦一

神戸地方裁判所第一民事部

裁判長裁判官 古川静夫殿

執行停止の申立に対し意見を求める件

神戸市灘区琵琶町二丁目二五

申立人 新谷政太郎

灘税務署長 大蔵事務官

被申立人 玉井彦一

本月十八日附を以つて御来照になりました右に対する首題の件について別紙の通り意見書を提出します。

(一) 申立人新谷政太郎は昭和二十五年七月三十一日所得税法第二十一条に依る昭和二十五年所得金額予定申告として金五万円也の申告書を当署に提出し次いで翌昭和二十六年二月二十八日同法第二十六条の規定に依り予定申告書と同額の金五万円の確定申告書を提出したものであるがその申告額は当署の調査した同人の昭和二十五年中に於ける所得額拾弐万円と異なる為被申立人は所得税法第四十六条第一項の規定に基きその所得金額を拾弐万円に更正の上同条第七項に依り昭和二十六年四月三十日附を以て之を申立人に通知せり然るに申立人は之を不服として同年八月七日附所得税法第四十八条第一項に基き被申立人に対し再調査の請求をなしたるも該請求は期限後の請求に付所得税法第四十八条第五項第一号該当のものとして却下の決定をなし昭和二十六年八月三十一日附配達証明郵便発送番号第三四三号を以てその旨申立人に通知せり申立人は此の却下決定に対し所得税法第四十九条第一項に依り更に審査の請求を為し得るにも拘らす此の請求をなささりし為被申立人の更正額拾弐万円は申立人の所得額として正当のものである。

訴願前置主義の規定(所得税法第五十一条第二項の規定)により審査決定を経ない訴は不適法となる又特例法第五条第三項の規定により行政処分の効力が生じて一ヶ年以上経過し居る為訴を提起できない以上何れより考察するも却下されるべきものなり。然るに申立人はその所得額に対する所得税を納付せざりし為被申立人に於て昭和二十六年八月二十八日国税徴収法第二十三条の三の規定に依り不動産を差押へ且つ同法第二十四条に依り公売処分に附するのは当然にして本人の申立はその理由なきものである。そもそも賦課処分と滞納処分は別個の行政処分にして課税額に不服ありとして再調査並に審査請求をなしその処理が確定するに至らざる間に於てなされたる国税滞納処分の有効なることは幾多の判例に徴しても明白なり(大正十三年五月十二日行政裁判所第一〇七号昭和六年十二月二十一日行政裁判所第二〇六号昭和七年三月七日行政裁判所第一六号等)依て上記の理由により執行停止申立はその理由なきものとして却下せらるべきものなり。

(二) 昭和二十六年度分については昭和二十六年八月一日所得金額五万円の予定申告があり翌昭和二十七年二月二十九日に昭和二十六年分所得金額八万円として確定申告書を提出したるも被申立人の調査額は二十四万円にして申立人の申告額と異るにつき昭和二十七年五月三日その所得金額を弐拾四万円に更正し、その旨申立人に通知せり。之に対し申立人は此の更正額を不当として同年五月三十日附を以て再調査の請求を届出でたるに付同日受付番号第二二〇号にて収受せり。然れども前記再調査請求に対しては所得税法第四十八条第五項第二号の規定に依り同年九月三日付を以て棄却に決定その旨通知なしたる処同月六日附を以て所得税法第四十九条に依り審査の請求書を提出せしものにして此の手続は有効として受理し目下大阪国税局長に於て審理中のものなり。又昭和二十五年分に於て述べたる如く未だ審査決定を終つていない訴は訴訟要件を欠き不適法として却下されるべきものである。而して納税者に於て再調査の請求又は審査の請求中といえどもその税金は納付する義務があるに拘らず納税せず、この昭和二十六年分所得税金弐万八千七百五拾円也は滞納中のものであるが之に対しては国税滞納処分に依る財産差押はなしをらざるものなり。

(三) 昭和二十七年度分所得金額については予定申告の提出なきため被申立人に於て所得税法第二十一条の二第十項の規定に基き申立人の所得額を金弐拾四万円として申立人に通知せしものなり。

然して同規定により前年分の総所得金額で申告書の提出があつたものとみなす為本件に就ては再調査審査は勿論訴訟の対象とならざるについて却下さるべきものである。

以上述べたる処により申立人は昭和二十五年度所得税金七千三百五拾円也昭和二十六年度所得税金弐万八千七百五拾円也昭和二十七年度所得税金第一期分壱万五千六百八拾円也に対しては全然納税せず何れも滞納中のものなるが被申立人に於ては国税滞納処分として差押えたるは前記昭和二十五年度所得税のみにして之に対する差押処分及公売処分の執行停止申立はその理由なく棄却せられるべきものなり。

右回答致します。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例